年金の繰り上げ受給は損か?――FPが本音で考える「60歳からもらう」という選択肢

お金・マネー

こんにちは、野良FPです。

最近、周りの方たちの間で年金の話題が増えている。中でも多いのが「繰り上げ受給にするか、繰り下げ受給にするか」という悩みだ。

結論から言うと、「損得」だけでなく「健康なうちに使えるお金」という視点で考えれば、繰り上げ受給は十分に合理的な選択肢になり得るというのが筆者の見解だ。ただし、金額の仕組みと注意点を正しく知った上での話である。本記事で、2026年度の最新の数字をもとに整理していく。

繰り上げ受給・繰り下げ受給とは

  • 繰り上げ受給:本来65歳からの年金を、60歳〜64歳の間に前倒しで受け取ること。1カ月あたり0.4%減額され、その減額率は一生続く(昭和37年4月2日以後生まれの場合)
  • 繰り下げ受給:受給開始を66歳〜75歳に遅らせること。1カ月あたり0.7%増額され、最大75歳開始で84%増になる

60歳まで繰り上げた場合の減額率は、0.4%×60カ月=24%。逆に言えば、60歳から本来の76%の年金を受け取れる、ということだ。

2026年度の老齢基礎年金は「満額847,300円」

まず土台となる数字を押さえよう。老齢基礎年金(国民年金)は、20歳から60歳までの480カ月すべて保険料を納めた場合に満額となる。

**2026年度(令和8年度)の満額は年額847,300円(月額70,608円)**だ(昭和31年4月2日以後生まれ)。前年度の831,700円から1.9%の引き上げ改定となっている。

加入月数が480カ月に満たない場合は、おおまかに次の式で概算できる。

847,300円 × 自分の保険料納付月数 ÷ 480カ月

正確な金額は「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認してほしい。

60歳から繰り上げると、いくら減るのか

満額の人が60歳まで繰り上げた場合を計算してみる。

受給開始年額月額
65歳(本来)847,300円約70,600円
60歳(繰り上げ・24%減)約644,000円約53,600円
差額約203,000円約17,000円

つまり、月あたり約1.7万円、年間で約20万円の差だ。決して小さくはない。だが、60歳以降も何らかの形で働き続ける人にとっては、月1.7万円は仕事でカバーできる範囲、という見方もできる。ここが判断の分かれ目になる。

損益分岐点は「約81歳」

繰り上げは早くもらい始める分、長生きすると総受給額で逆転される。60歳繰り上げ(24%減)の場合、65歳受給に総額で追い抜かれるのはおおむね80歳10カ月前後だ。

  • 81歳より前に亡くなれば → 繰り上げの方が総額で多い
  • 81歳を超えて長生きすれば → 本来受給(65歳)の方が多い

ちなみに繰り下げの損益分岐点は、70歳開始でおおむね81歳11カ月、75歳開始でおおむね86歳11カ月あたりとされる。「何歳まで生きるか」は誰にも分からない以上、損得計算だけで決められないのがこの問題の本質だ。

【重要】厚生年金がある人は「基礎年金だけ繰り上げ」はできない

ここは誤解が多いので、はっきり書いておく。

繰り上げ請求は、老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に行うのが原則だ。 会社員・公務員として厚生年金に加入していた人は、「基礎年金だけ60歳からもらい、厚生年金は65歳から」という選択はできない。繰り上げるなら両方まとめて、両方とも減額される。

したがって「基礎年金の繰り上げ」を単体で考えられるのは、主に自営業などで国民年金のみの期間しかない人だ。厚生年金部分がある人は、減額の影響額がより大きくなる点を踏まえて判断してほしい。

追い風:働きながらでも「基礎年金」は減らされない

「繰り上げてもらいながら働くと、年金がカットされるのでは?」と心配する人も多い。ここで在職老齢年金の仕組みを整理しておく。

  • 在職老齢年金で支給停止の対象になるのは老齢厚生年金(報酬比例部分)だけ老齢基礎年金は、いくら稼いでも減らされない
  • しかも2026年4月から、支給停止の基準額(賃金+厚生年金月額の合計)が51万円から65万円に大幅に引き上げられた

つまり「60歳から基礎年金を受け取りつつ、無理のないペースで働く」というスタイルは、制度面でもやりやすくなっている。働くシニアにとっては追い風の改正だ。

繰り上げ受給の注意点――ここだけは確認してほしい

繰り上げには、減額以外にも見落とされがちなデメリットがある。

  • 一度請求すると取り消せない。減額率は生涯続く
  • 繰り上げ後は、原則として障害基礎年金を請求できなくなる(事後重症による請求など)
  • 国民年金の任意加入や保険料の追納ができなくなる(=満額に近づける手段を失う)
  • 65歳になるまでは遺族厚生年金など他の年金と併給できず、どちらかを選択することになる
  • 減額されると、将来の遺族基礎年金等には影響しないが、自身の生活設計の土台が小さくなる

「早くもらえる」の裏にあるこれらの条件を知らずに請求してしまうのが、一番の失敗パターンである。

筆者の見解:ストレスの少ない暮らしは、それ自体が資産だ

そのうえで、筆者の考えを書いておきたい。

今までどおりの仕事を65歳まで続けてから満額を受け取るか。60歳から減額された年金を受け取り、仕事のペースを落としてストレスを緩和しながら暮らすか。これはもう、人それぞれの価値観だ。

ただ筆者は、ストレスを緩和しながらの暮らしのほうが、健康には良いと思っている。日本人の健康寿命(健康上の問題なく日常生活を送れる期間)は、平均するとおおよそ男性72〜73歳、女性75歳前後とされる。お金を自由に使い、行きたい場所に行ける「元気な時間」は、思っているより短いかもしれない。

損益分岐点の81歳まで生きるかどうかを賭けるより、確実に元気な60代を豊かにする——そういうお金の使い方があってもいい。年金は「長生きへの保険」であると同時に、「今を生きるための原資」でもあるのだ。

よくある質問(FAQ)

Q. 繰り上げ受給の減額率は?

A. 昭和37年4月2日以後生まれの場合、1カ月繰り上げるごとに0.4%の減額。60歳まで5年(60カ月)繰り上げると24%減となり、この減額率は一生変わらない。

Q. 2026年度の国民年金(老齢基礎年金)の満額はいくら?

A. 年額847,300円、月額70,608円(昭和31年4月2日以後生まれ)。40年(480カ月)全て保険料を納めた場合の金額で、2025年度から1.9%の引き上げとなった。

Q. 繰り上げ受給しながら働くと年金は減らされる?

A. 老齢基礎年金は在職老齢年金の対象外なので、収入にかかわらず減らされない。老齢厚生年金(報酬比例部分)は、賃金との合計が基準額(2026年度は月65万円)を超えると超過分の半分が支給停止になる。

Q. 繰り上げと繰り下げ、結局どちらが得?

A. 一概には言えない。60歳繰り上げの損益分岐点は約81歳で、それより長生きすれば本来受給が有利。健康状態、働き方、貯蓄、家族構成によって最適解は変わるため、ねんきんネットで自分の見込額を確認し、必要なら年金事務所やFPに相談してほしい。

まとめ

  • 2026年度の老齢基礎年金の満額は年額847,300円(月額70,608円)
  • 60歳への繰り上げで24%減。満額の人で月約1.7万円・年約20万円の差になる
  • 損益分岐点は約81歳。厚生年金がある人は基礎・厚生の同時繰り上げが原則
  • 基礎年金は働いても減額されず、在職老齢年金の基準額も65万円に引き上げられた
  • 損得だけでなく「健康寿命」という時間軸で考えることが、後悔しない選択につながる

読者の皆さんも、ねんきん定期便やねんきんネットで実際に受給できる金額を確かめながら、今後のライフプランを熟考してみてほしい。それもまた、老後を設計する楽しみの一つかもしれない。


※本記事は2026年7月時点の制度・金額に基づく一般的な情報提供であり、特定の受給方法を推奨するものではありません。繰り上げ・繰り下げの可否や金額は個々の加入記録・生年月日によって異なります。実際の手続きの前に、必ずねんきんネットや年金事務所で自身の条件をご確認ください。

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